『新世界より』

新世界より 上新世界より 上

新世界より 下 狐火の家 クリムゾンの迷宮 (角川ホラー文庫) 硝子のハンマー (角川文庫 き 28-2) 天使の囀り (角川ホラー文庫)

SF
めちゃくちゃ面白かった。凄い。エゲツない。人類文明崩壊後の近?遠?未来を舞台に、超能力を手に入れた新人類と、知能を持ったネズミの戦い、といった世界設定で、少年少女達が冒険をし、大人になっていく。まず単純にストーリーが面白い。正直アドベンチャーものとしては、王道な展開ではあるのだが、ストーリーテリングがうまく、テンポよくよめるリーダビリティの高さ。そして、敵味方両陣営の登場人物が魅力的、さらに、世界観を語る語り口、進化した自然環境=動植物の植生等の緻密な描写も面白い。
と、純粋なエンタメとして一級品なだけでなく、SFとしても素晴らしい(さすがにSF大賞受賞作)。超能力を手に入れた後の人類の歴史、グロテスクに変化した自然とその理由、そういった世界観が全て見事に今=現実を抉ってくる。なによりいいのは、そういった設定の謎解きをちゃんと本の中でやった上で、さらに読後余韻を引かせるだけのラスト(決して気持ちがいいだけの終わり方ではない、というか、決して後味すっきりではないので要注意)になっているところ。個人的に、謎のヒントだけ出して、投げっぱなしの終わり方は好きでじゃないので。
SFを読まない人には、SFって絵空事で、そんなのよんでも何のためになるの?的なことを思っている人が多いのかなと思う。けど、実は全く逆。SF程、現実のグロテスクさを抉ってくるものはないと思う。むしろ、現代を舞台にした恋愛ものなんかの方が、絵空事でファンタジー(ジャンルとしてのファンタジーではないですよ!)、それこそ、そんなの読んだってただの現実逃避だろと思うわけで。
新世界より」もなので、決して読後感がいいわけじゃない。読み終わった後は、正直複雑な気分になる。この複雑な気分ってのを味わうためにSF読んでるんだよね。なので、SF読み冥利に尽きる一冊でした。