『ドラゴンズ・ウィル』
ドラゴンズ・ウィル (富士見ファンタジア文庫) 榊 一郎 by G-Tools |
『スクラップド・プリンセス』シリーズなどで有名な、榊一郎のデビュー作。第九回ファンタジア長編小説大賞、準入選作品。自称勇者の代理人なヒロインと、平和主義者の魔竜、二人の出会いから別れまでを通じて、それぞれの”自分探し”が描かれるファンタジー。
非常にいい出来だと思う。テーマは端的に言えば”自分探し”ってことになるのだろうけど、これってティーンズ・ノベルとも言われるライトノベルには直球、ど真ん中のテーマ。そういえば、最近はど真ん中のストレート勝負の作品はあまり見ないなあ。読む方の年齢層が上がった?からか、よむほうがこっぱずかしくなる、あるいは、不快に感じるような青臭い話は回避されるのだろうか。で、”自分探し”の結論も、ありきたりだが、変にひねってあるよりもいい。
さらに、世界の設定(特に魔竜や英雄の存在理由。物語の根幹に関わるので書きませんが……)がなかなか面白く、なるほどと思わせるものであったり、悪役の動機なんかも大きくてかなり好き。分量の関係なのか、すこし描写が薄く、駆け足なのが残念に思えるほど。”薄い”と感じるのは、脇役たちの背景などの描写にもあてはまるが、そこまでやってると明らかに詰め込みすぎになってしまいそう。そのあたりのバランスの悪さは処女作だから仕方ないのかも。
正直これで”準入選”と思うほど個人的にはよかったと思う。で、その後の作者の活躍を見れば納得。おすすめ。